my lips are sealed

tamavskyのB面

TIFF2021

東京国際映画祭、今年は『もうひとりのトム』『オマージュ』『家族ゲーム』を観た。『牛』もチケットをとっていたのに起きて時計をみたら上映10分前だったので諦めた。残念。

 

『もうひとりのトム』
シングルマザーのエレナと息子のトム。トムはADHDと診断され投薬治療を受けていた。しかしトムが事故で怪我をしたのをきっかけに薬の副作用が気になり始める。エレナは投薬治療を拒否するが、福祉局からネグレクトと捉えられてしまい……という話。
アメリカの児童福祉は非常に発達しているけれど、子どもでもすぐに薬物治療につなげてしまう点や(9歳児にもすぐに睡眠薬が出されるので驚き)、それ以外の選択肢を許容せず、中止すれば虐待扱いという過激な面も持ち合わせている。子どもを守るためとはいえ、受ける治療や家族の形が縛られるのは果たして良いことなんだろうか。多くの人が『フロリダ・プロジェクト』と比較しているし私も思い出した。
ところどころで換気扇、シーリングファン、室外機、エアー看板といった、ファンのついた装置・空気を循環させる装置のインサートが挟まれる。文明的な生活においては、外では勝手に流れている空気をわざわざ装置によって循環させなければならない。クルクルと回転するファンは経済的困窮、障害、差別といった苦しい渦の中でかろうじて息をしているエレナやトムと重なって見え、モーター音は苦悶の唸り声のように聞こえた。クルクルとその場で回転するだけで逃げ場はない。ラストの展開も状況の打開というよりは現実逃避だ。しかし夢のような元夫(トムの父)の家、太陽の光に溢れたプールの情景は美しくて心が洗われるようだった。

 

『オマージュ』
韓国の映画。『パラサイト』で先代家政婦を演じたイ・ジョンウンが主演。売れない映画監督ジワンが、韓国初の女性映画監督の作品を修復するアルバイトをすることになったが、その過程で様々な人と出会い、女性監督の苦悩や差別の歴史が浮かび上がってくる……という話。
シリアスでミステリアスな展開も多いけれどほとんどのシーンは軽妙なユーモアにあふれており、劇場でも笑い声が起こっていた。
ただ、病気で子宮を全摘することになり戸惑う主人公に医師が「まさか出産の予定が?」というシーン、術後の主人公が夫に「ブラザー」と自嘲的に呼びかけるシーンにさえゲラゲラと声をあげて笑っている男の人が多くてぞっとした。
この映画に限らずフェミニズムの視点を持ったコメディ映画、あるいは、コメディチックな演出のある映画を観ているとまったく見当外れなところでおじさんが大笑いしていることが何度もあって、その度に溜息が出る。漏れ出る笑い声は、建前ではごまかせない本音だから……。
ストーリーテリングは淡々としており、もっと壮大な冒険譚のようにしてもよかったのではないかと思ってしまう。『ヒューゴの不思議な発明』みたいな。写真に映る「三羽ガラス」のあともう一人は誰なのか? 検閲されたシーンは「女性の喫煙」以外になかったの? などなど、なんだか聞き足りないような要素もたくさんあるのだ。
それにしても、庭に干したシーツがスクリーンになったり、天井に空いた穴がスポットライトになったり、○○の○○○が○○○○だったり(ネタバレ回避)、日常の中に映画という現象の"オマージュ"が散りばめられているのがドラマチックで良かった。光と影が効果的に用いられていた。

 

家族ゲーム
某ートスクールのMVがこの映画をめちゃくちゃオマージュというかパロディというか、それにしてはそのまますぎるのだけれど元ネタにしているので知り、観てみたいな~と思って数年経っていたら映画祭で上映されるということでチケットをとった。とても面白かった。劇場もずっとクスクスしているようなシュールでブラックな笑い。観に行って本当によかった。
しかも、運良くトークショー付きだった。宮川一朗太が「僕のにきび面が4Kリマスターされてしまって……!」と笑っていてこちらも笑ってしまった。由紀さおり曰く、伊丹十三松田優作は撮影中の昼休みは食べるのも忘れて映画について語り合っていたし、長い休み時間には抜け出して映画を観に行くこともあって、とにかく映画が大好きな二人だったとのこと。伊藤克信は、自身が演じた「テストの点数が悪かった答案を校庭に投げて取りに行かせる教師」は森田監督が子役たちに学校の話をしてもらった中で実際に出てきた先生の話で、面白いから映画で使いましょうということになったと話していた。
松田優作がボソボソしゃべっているとどんどん松田龍平に見えてくる。
そういえば4Kリマスターで映像だけでなく音もよくなっているそうなのだが、それでも英語字幕がなければ何を言っているのか怪しい部分もあるくらいの"つぶやき芝居"なので、録音と整音が本当に大変だっただろうなあと思いを馳せる。
あと、戸川純の登場にびっくり。なんてことのないキャラクターなのだけれど存在感があった、パンツ一丁で布団しいてよーとしつこく言ってくる息子に負けないくらいの……(なんちゅうシーンだよ)
ロケ地が勝どきあたりらしいが、今はもうあの茫漠とした感じはなく、映画では大きく見えた団地が小さく見えるほど高層ビルが立ち並んでいるらしい。あのときしか撮れなかった東京が映っている映画、うらやましくなる。